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第1章:邂逅と悪役令息 4

Author: 社菘
last update Last Updated: 2025-06-25 17:00:44

 ドアの外から声をかけられ「どうぞ」と言っていないにもかかわらず、ベルティアの返答を待たずにドアが開く。その隙間から現れたのはセナ・フェルローネで、ゲームでは存在しなかった予想外の訪問客にベルティアは言葉を失った。

 そもそもベルティアが倒れたことがイレギュラーだったのでシナリオやキャラクターの動きが変わっていることは何ら不思議ではないけれど、まさかこの短時間の間にセナともう一度会うことになるとは思っていなかったのだ。

 そして何より、ベルティアはセナの頭上に浮かび上がる数値に驚いた。

「(なんでセナにも好感度の表示が……っ!?)」

 『聖なる瞳の幸福』でも『ベルティア・レイクの幸福』でも二人はいわゆるライバル関係で、お互いに攻略対象者ではない。それなのに本編の主人公であるセナにもベルティアに対する好感度が表示されており、よく分からない状況に思わず後ずさった。

 《セナ・フェルローネ 好感度:96%》

 医務室で目覚めた時に見たノアの好感度よりも高い数値に、二度見ならぬ三度見してしまう。ベルティアが倒れる前に出会ったセナに好感度の表示はなかったはずで、前世の記憶が蘇り『ベルティア・レイクの幸福』がスタートしてしまってから何もかも変わってしまった。

 でも、本編の主人公までがベルティアへの好感度が90%を超えているなんて、そんな話は聞いていない。

 クリア条件である『好感度0%』の対象者の中にセナも入っているということだろうか?もしそうだとしたら5人もの対象者の好感度を下げないといけなくなる。

「(……でもどうせ、セナには嫌がらせをしないといけないから自然と下がる…かな)」

 予想外の展開が続いて頭が混乱するのを通り越し、爆発しそうな思いだった。

 冷静に考えてみると、セナとは出会ったばかり。もしかしたら最初から100%の数値が、ベルティアが挨拶を無視したので96%になったのかもしれない。

 つまり、このまま嫌がらせを続けていれば
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